加西産業の特性・成り立ちと風土
■異業種・自主独立の事業所が多い
・太平洋戦争の終戦1945年の2年後の1947年、加西郡北条町に戦中の松下電工兵器製造所を引継ぎ三洋電機製作所(後の三洋電機)が創業。
・住吉神社の門前町や京阪神から山陰地方への交通の要衝として、特筆できるような地場産業が無い北条において、戦後の早い段階での近代工場の進出により、地場産業ではなく近代産業として次第に周辺の農村地域に部品下請け工業を誕生させた。
・播州の片田舎(加西)の下請け部品工場であっても、大手家電メーカーから高品質が求められ、早い段階で近代工業に参入できた。
次第に下請け工場も独自の高い技術力を持つようになり、田舎ゆえに比較的自由に工場の拡張が可能で大きな工場を建てる中規模の下請け事業所が増えてきた。(昭和43年都市計画法施行前)
・部品下請け事業者も独自の技術を開発するようになり、単一メーカーの部品下請け事業所から、多様なメーカーの部品を製造できる技術力により、企画・開発・製造までできる自主独立の企業が育ち、多種・多様の「ものづくり」が可能な地域になっていく。
・加西市では最盛期、近代家電メーカーの従業員が1500人だと、家族を含め約6000人(市内人口の1割以上)がメーカー関係者だった。
・オンリーワンの自主独立事業所も多い。 (伊東電機、シルバーロイ、高井電機、木下技研)
・市内には多種多様な異業種事業所が多く、同業者競合や商売敵(かたき)が少ないので事業者間の関係は良好である。
・三洋電機の業績の下降により、平成18年に三洋電機北条工場が閉鎖され、三洋OBと多くの技術者の流出が懸念されたが、地域に留まり地域企業に再就職する技術者も多く、彼らの蓄積した高度な技術力や品質管理により、地域の「ものづくり事業所」の実力が世界レベルまで数段アップした。
・年商30億もあれば、大手技術者のOBの再雇用も可能であり、技術力確保と若手技術者の水準向上の下支えになった。
・産業団地にも超大手企業の進出ではなく地元企業が成長し進出している。
■ダム効果
・上流部から海岸部まで流れる河川を途中でせき止めるダムの様に、加西はちょうど山間部と海岸部の中間に位置し、北播磨地域の上流部の労働力を受け止めている。
・加西市内から通学や就業で海岸部まで通勤する人より、就業のため市内に通勤する者の方が多い。昼夜間人口比101.8 (昼間人口の方が多い) 北(上流部)からの就業者だけでなく、東・西からの就業者流入も多い。
加西市内には高等学校が2校しかなく、市外へ進学するものが多いが、昼間人口の増は就業者の市外流入によるものが大きい。・商業では市街地に大型のイオンショッピングモールがあり、上流の消費者は海岸部の姫路や加古川まで出かけなくても、ほとんどの商品を購入することができる。
・イオンモールは近隣のみならず、中国自動車道を利用して東西の消費者も取り組む位置にある。
◆今後の課題
1.大手企業出身の技術者の定年退職
これまで品質と技術を引っ張ってきた大手企業のOBが定年になり、技術力の継承と進歩・発展が課題。
2.若年就労者の流出
市内出身の高卒・大卒者が大都市圏への就職を希望し、地域に留まり就職しようとするものが少なくなってきている。
3.事業所拡張に伴う土地利用規制
地域に立地する事業所が工場を拡張したくても、都市計画法や農振法・農地法の厳しい規制により工場の拡張や新規立地が困難。
4.インフラ整備の遅れ
市内の南に隣接する山陽自動車道加古川北ICと市内中央部に位置する中国自動車道加西ICを結ぶ県道玉野・倉谷線(延長10km)が産業道路としては幅員が狭く大型自動車の通行や歩行者・自転車通学者の安全確保が図られていない。
5.産業・工業団地の不足
市内の4産業団地では企業進出や立地が進み、満杯の状態で空き区画が無い。企業進出や工場拡張ができない状態である。
加西の製造業が飛躍の鍵 神戸新聞NEXT2017.07.21より
拓殖大学政治経済学部教授 山本尚史氏
地域経済活性化には、地域外からの経済ショックから立ち直る「回復力」が鍵となる。リーマンショック不況で各市が受けた影響およびその後の変化を分析した最近の研究から、工業における回復力のある市について興味深いことがわかった。分析結果によれば、全国813市のうち半数以上の都市において、地域経済の根幹である各種の製造業がリーマンショックから負の影響を受け、しかもそこから回復できていない。その一方で、リーマンショックから負の影響を受けつつも回復を遂げた都市が全国で10市あることも判明した。その中に加西市がある。
加西市は、製造業が市内総生産額と従業者数において約半数を占める、製造業に特化した都市である。産業構造の特徴としては、電気機械器具製造業に加えて、金属製品製造業、汎用機械器具製造業が有力である。また、就業者数に対する生産工程・労務作業者の割合と、生産工程従事者の割合とが、いずれも全国平均を大きく上回っている。加西市の強みは、製造業の産業集積があること、高い技術力や独自のノウハウを持ち進取の精神にあふれる中小企業が多数存在していること、災害面でのリスクが少ないこと、などにある。
その反面、従業者一人あたりの製造品出荷額では、近隣の加東市、福崎町、神河町に後塵を拝している。また、市内企業での雇用は北播磨3市と比較して高い水準で安定しているものの、失業率は市川町に続いて高い状態である。
加西市の製造業は、労働生産性を高めることにより更なる成長を遂げる可能性がある。既に商工会議所などによる取り組みがなされており、今後の展開に期待したい。